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歌詞対訳付き/日本盤独自アートワーク
エストニアのシンガー・ソングライター、マリ・カルクンの3rdアルバムが完成した。前作2nd『Vihmakono』(2010年)は『ミュージック・マガジン』誌で年間ベスト・アルバムに入賞し(日本でのリリースは2011年)、それを受けてデビュー・アルバム『Uu tulok』(2007年)も日本盤がリリースされ、年齢や性別を問わず、日本のリスナーにも高く評価された。聴き手に真っ直ぐ向かってくる真摯なボーカル、民族楽器カンネル(琴やシターのような弦楽器)の乾いた音色、独特の発声を持つヴォロ語の透き通ったメロディ。単なる北欧音楽、フォーク・ミュージックに留まらない独特の世界がそこにはある。
彼女の音楽を説明するのにジュディ・シルやケイシー・マッコード、ヴァシティ・バニアンといったアシッド・フォーク系の女性シンガー・ソングライターが引き合いに出されるが(事実ヴァシティとは今年2015年にエストニアで共演している)、透明感とそれにともなう憂いという点では確かに共通点も多く、片足をトラディッショナルに、片足をコンテンポラリー・ミュージックに置くという自意識も彼女たちに共通したものと言っていいだろう。
この新作の最大の特徴は、これまでの作品と違いバンド編成で制作されていることだ。ドラム&パーカッションとダブル・ベース、そしてフィンランドのカンネルとも言えるカンテレ&ボーカルによる計4人でのレコーディングとなっている。リズム隊が入ったことで曲に立体感が出て、フロントにふたりのボーカルとメロディ楽器が入りハーモニーが強調されている点が最大の変化だと言えるだろう。レコーディングは南エストニアの小さな村にある簡素なスタジオで行なわれた。マリ自身のルーツに近い地域で、眼下に湖が広がる落ち着ける場所だったそうだ。期間は2014年のひと夏のこと。
マリはこのアルバムを説明するときに"ルノ・ソング"という言葉をよく口にする。"詩の歌"という意味だ。エストニアン・トラディッショナル・フォークをベースにしながら、ヒップホップなどに代表される言葉/歌詞を立たせたコンテンポラリー・ミュージック・スタイルを意識した曲作りをし、そしてそれを南エストニアの言語ヴォロ語で歌う。歌詞のテーマは大地に根ざした生活の歌......それを彼女は"ルノ・ソング"という言葉で表現する。それは借り物でない血肉の力強さ(伝統)と、そしてそこに留まらず前進しようとする姿勢が重なって、独自の気高さと美しさを放っている。湿気のない透き通った北欧の大地を駆け抜ける風のような歌......個性という意味では、唯一無二の音世界が確立していると言っても言い過ぎではないだろう。このアルバムを聴いていると、歌の可能性がまた広がった感すらする。
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