時の流れに身を任せ

たぶん30数年ぶりだろう、プロ野球観戦で球場に足を運んだのは。
新聞販売員からもらったタダ券があったから、最近野球にご執心の息子を連れて全席自由の外野席ポール際に陣取ることになった。

神宮球場の巨人/ヤクルト戦。レフト側から入って、熱烈な巨人応援団から距離を置くと自然とポール際に追いやられるが、ここは風が渡って気持ちいい。
風がさらーと頬を撫で、鳴り物の太鼓がデンデンデンと球場を回ってダブり、それが風に乗って千駄ヶ谷方面に流れるのをぼんやり眺め、ビールをぐびりとやるのだ……ああ、いい感じ。
じっと座っていれなくて球場を探検する息子を気にしながら、酎ハイにチェンジするが、これならいくらでも飲めそうだ、ひゃひゃひゃ。
「ママのいない男同士の時間もいいだろ?」とヤツにせまったら、迷惑そうに「パパ、酔っぱらってるの?」と勇まれた。

夜の7時も過ぎると水曜日だというのに席はほぼ埋まる。
試合から目を離し、ふっと周りを注視してみると、ワケあり中年カップルひそひそ風、お疲れ壮年おばさん単独でビール&焼き鳥がばがば風、20代のサラリーマン+OLグループのきゃぴきゃぴ合コン風、おばさん集団観戦たぶんはとバス風など、ひと模様の鮮やかさに目を奪われた。
カメラを回して「あなたにとって幸せとは何でしょう?」とインタビューでもすれば、それだけでNHKドキュメントが1本完成しそう。

そして週末は西伊豆に釣りに行った。
駿河湾は穏やかでタールを流したようなベタ凪ぎの海。ひなびた田舎の小さな防波堤で竿を出す。目の前には富士山。それだけで十分だ。
しばらくすると麦わら帽の日焼けした地元のおっちゃんが手慣れた風にやってきて、隣でよっこらしょと竿を出す。みんな釣れない。正確には外道ばかりで釣りにならない。
おっちゃんの足下には小さなトランジスタ・ラジオがあって、昭和の歌謡曲が漁港にだらしなく流れている。それが潮風に流されるんだが、それがいい。
耳元を昭和歌謡がさわさわくすぐり、ウキは小魚がつついてつまらなそうに揺れる。眼前には天下の富士ヤマ。SEは風にミックスされたキャンディーズ。

本は売れず、雑誌は次々と休刊し、CDはてんで商売にならないから、逃げるように海に行く。
パソコンの前でうだうだ悩むのを我が身体は嫌って、無意識に海に向かわせるのだろう。今はそれでいいと思ってる。しばらく考えない。

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